巣ごもり映画祭
アンダー・ザ・シルバーレイク
2018年
紹介者:kj さん
青春ホラー映画「イット・フォローズ」のヒットで一気に注目の存在となったデヴィッド・ロバート・ミッチェル監督がその次に人気俳優アンドリュー・ガーフィールド主演で撮った映画です。
ロサンゼルス在住の自称アーティストのサム(ガーフィールド)は日々の家賃に追われながらも、生産的な仕事をするでもなく、隣人の覗きに精を出したりしています。しかし、隣の美人さんが失踪したことでサムの怠惰な日常は、陰謀と権力者の影が渦巻く危険な冒険に変わります。
自己申告でアーティストを名乗り、ロスのクリエイターの街に住んでること「だけ」をステータスにしていた男が、一部の金持ちが敷いた狂気と搾取のシステムに気付いたことで、「生産性」という概念そのものに立ち向かう、生きた幽霊のようになっていく過程は、かなり妄想めいてはいますが、コロナ危機で、世界に対して冷静な判断ができにくくなっている今に見返せば、また違った驚きがあるかと思います。
前のめりになって「生産性」の輪に加わっても、それは弱肉強食のパワーゲームに取り込まれるということ。だったら「取り敢えず」でいいから、生きて生きて生き抜こう!そんな気分にさせてくれる映画です。
はじめてのおもてなし
2016年
紹介者:tototomoton さん
昨年映画館で観てすごくしあわせな気持ちになったドイツの映画です。今ならNetflixでみられます。
ミュンヘンの裕福な家族が難民を自宅に受け入れたことから、いろんな事件が起こるのですが、、、とにかくみんな道を模索していて、必死に生きがいを探してて、今のドイツを切り取った面白い作品です。そして風景も美しい!
旅に出れない今だからこそ、映画で世界を見る絶好の機会です。 皆さんも是非!
ミスター・ロジャースのご近所さんになろう
2018年
紹介者:きゅう さん
米幼児TV番組の司会者フレッド・ロジャースの伝記ドキュメンタリーです。Amazonプライムで見られます。
子供に真摯に向き合い、「ありのままの君が好き」と歌いかける姿には、「この人は本物だ」と感じさせる独特の穏やかな空気があります。荒んだ子供時代を送った人間として、こういう大人に出会いたかったなと思いました。子供の感情、特に不安や恐怖に寄り添いつづけたフレッドの言葉は、今こそ必要とされているのではないでしょうか。
なお昨年、トム・ハンクス主演、マリエル・ヘラー監督で、フレッドを主人公にした映画「A Beautiful Day in the Neighborhood」が作られています。せめてDVDか配信で日本公開されないかなあ、と思っているところです。
オデッセイ
2015年
紹介者:ムビリオバトル大阪主催
不運な事故に見舞われ火星に取り残された宇宙飛行士、ワトニー(演:マット・デイモン)の物語。出だしから他の仲間は地球へ帰る宇宙船に乗り込んでいってしまい荒れた惑星には自分一人、通信手段も絶たれ、食糧は次のミッションで誰かが火星に来る日までは到底持たない量しか残されていない…という、この上なく孤独で絶体絶命の窮地に立たされてしまいます。
しかし、内省的でシリアスな内容になるかと思いきや、映画のトーンはあくまで明るく楽観的。居住ハブに土を持ち込みジャガイモを栽培したり、ありものの道具を使って水の生成を試みたりと持ち前の科学知識と陽気さ(それから船長の残していったディスコミュージック)のパワーで生き延びようとするワトニーと、たった一人の人間を何としてでも救おうと全力を尽くすNASAの人々の姿は、このご時世にはいっそう力強く映るはずです。
トラブル続きでどう考えても死んでしまう以外の結末が思いつかないような過酷な状況を、果たして彼らはどうやって打破していくのでしょうか?答えはぜひ映画を見て確かめてみてください。
原作小説「火星の人」も面白いので、映画が気に入った方はそちらもどうぞ。
軽い男じゃないのよ
2018年
紹介者:ムビリオバトル大阪主催
Netflixフランスの作品。主人公は犯罪者というほどでもないけどちょっと女性に対しセクハラ気味なところがある男。ある日彼はうっかり頭を打って失神するが、目覚めてみると何かがおかしい。そこは男女の力関係が逆転した世界だった…というコメディ。
コメディであることは間違いないのですが、思わず笑ってしまったあとで「なぜ性別が入れ替わるだけで笑えると感じたのだろう」と無意識の偏見をあぶりだされる描写が目白押しで、製作者の鋭さに感嘆することしきりです。特に、あまりにもエロくないことに面食らってしまう男女のセックスや女性のトップレスの描き方はぜひ見てほしいところ。当然のことを主張しているだけなのに感情的な「マスキュリスト」として扱われる世界に放り込まれた主人公は、「女尊男卑」に揉まれる中でどう変化していくのでしょうか。
世界が「ノーマル」だった頃が恋しくなる昨今ですが、もしかしたら自分が「ノーマル」だと思っていた常識はそれほどまっとうではなかったのでは?と考えさせられます。気軽に見られるコメディでありながら鋭い風刺精神に貫かれている佳作であり、実はロマンス描写が好きな映画の一つでもあります。
ミス・アメリカーナ
2020年
紹介者:ムビリオバトル大阪主催
ドキュメンタリーですが、85分で映画ぐらいの尺なのでということでひとつ…。アメリカの超人気歌手であるテイラー・スウィフトを追った作品で、そんなのファンじゃないと面白くないのでは?と思われるかもしれませんが、さにあらず。私はファンでもなく全く詳しくなかったのですが、心から見てよかったと思いました。
作曲などの職業人としての面と並行して、一人の女性・人間としての変化も印象的に描かれる点が見どころ。お人形さんのようなブロンド美女(ファンから「バービーみたい」と言われる場面も)である彼女が、摂食障害やセクハラ被害からの裁判を経て「ニコニコして声高に主張しない」という意味でのお人形さんでいることを止め、声を上げる決断をする様に胸が熱くなります。意外と「海外では芸能人が政治発言しても平気」というほど単純なものではなく、特に保守派が多いと言われるカントリー出身の彼女にとってはかなり難しい決断だったようです。
彼女に比べれば遥かにささやかな影響力ではあれど、自分も世の中のことを考えて意見を持っていいのだと勇気をもらえます。ファンはもちろん、テイラー・スウィフトって誰?という方でもおすすめ!